手付解除するには
まず手付とは、売買契約や賃貸借契約といった有償契約において契約の際に代金・報酬の一部支払以上の意味を込めて当事者の一方から他方に交付される有価物をいいます。要するに、実際の契約で定められた額以上(10〜20%程度)の対価を手付といいます。この手付をなぜ支払うかというと、契約が成立したことの証拠としてだったり(「証約手付」)、その契約が債務不履行に陥ったときに手付受領者により没収するという、受領者への損害負担軽減(「違約手付」)の機能を有するからです。
手付を支払うことによりいざとなれば契約を解除することもできます。これがいわゆる「手付解除」というものになります。民法は売買契約において手付の規定を設けています。これによると、買主が売主に対して手付を交付したときは、買主と売主の双方から解除をすることができるとされています(民法557条1項本文)。
ただ、買主が解除する場合と売主が解除する場合では方法が異なります。買主が手付解除をする場合は、買主がもともと売主に対して交付していた手付を放棄すれば契約を解除したことになります。これに対して、売主が手付解除をする場合は、売主が買主に手付金の倍額を現実に提供する必要があります。
手付を交付していれば両当事者いつでも契約を解除することができるかというと、そうではありません。相手方が契約の履行に着手した後は任意に契約を解除できなくなります(民法557条1項ただし書)。この「履行の着手」が具体的に何かと言われると、条文だけでは判然としません。最高裁判例は「履行の着手」を「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」と解しています(最大判昭和40年11月24日民集19巻8号2019頁)。
なお、一般的な契約の解除をした場合には損害賠償が請求される場合もあり得ますが(民法545条4項)、手付解除の場合は損害賠償が請求されることはありません(同法557条2項)。
以上をまとめると、手付解除をするには、
①実際に手付を交付していること
②契約の相手方の履行が社会通念上着手していると見られる前であること
が条件となっているといえます。
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